スプーン一匙の物語

ツイッター(@maru_ayase)で書いた短い短い小説の保管庫です。

2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

にじゅうく

終わりの浜で、彼は炎に焼かれて座っていた。待ったぞと招かれて心が弾む。私の肩を抱いて喋り出した。苦痛や不幸、呪いの深さ。気弱な私は彼の憎悪に魅せられ、欠損を埋めることを自分の使命とした。炎が肌を舐めていく。二人とも誰でもよかったのだ。一塊…

にじゅうなな

私たちはレコーダーだ。それぞれ吹き込まれた曲を一つずつ覚えている。姉は頬を、私は耳の後ろを押されたら歌う。どれだけ気が乗らなくても歌う約束だ。私は姉が選んだ曲を中身すかすかのゆるふわ曲だと思ってるし、姉は私が選んだ曲を頭がおかしい電波曲と…

にじゅうろく

失踪した叔母の靴を引き取ることになった。私宛てで靴箱にメモが貼られていたらしい。派手な靴ばかりで服に合うものなんて一つもない上、サイズも大きい。捨てようとしたら、高いのよと母に叱られた。仕方なく一番地味な、靴裏が赤く塗られたエロいハイヒー…

にじゅうご(とお)

体育館からトランペットの音がした。バレー部が交流試合をしているらしい。中を覗くと、負けているのにそいつだけやけに元気そうだ。周囲の焦りも開く点差も、見えていないのだろう。次は勝つと思う以外のことをしない。こういうやつがいるんだ。試合が終わ…

にじゅうし

ほどけるのが得意な人だ。狭い通路も、爪先からするすると輪郭を崩し、一本の糸になって通り抜けてしまう。ある日、私で服を作って、と言った。人としてではなく、物としてあなたに愛されたい。浮気の後ろめたさから僕はかぎ針を持った。夕焼け色のワンピー…

にじゅうさん

毎朝、考える。もしも世界が終ったら。私は争いを避け(原因はだいたい戦争)、かわいそうな子供達と食料を分け合い、雨水をすすって廃墟で暮らそう。戦いをやめない権力者にもうやめて、と声をあげる。遅刻だよ、と友人に肩を叩かれる。ああ、うんざりする…