スプーン一匙の物語

ツイッター(@maru_ayase)で書いた短い短い小説の保管庫です。

2016-03-31から1日間の記事一覧

にじゅに

出会った時から心奪われた。丸い瞳、薄桃の頬、つむじの匂い。上等なものを生み出した誇らしさもあった。這い、立ち、私へ向けて歩き出す。なつくのだから情も湧く。人格は後から知った。心でも脳でもなく、私の構造がこの子を愛しているのかもしれない。そ…

にじゅいち

巨大な山を登っている。周囲は暗くてやけに血腥い。どうしてここにいるんだっけ。暗いうちに足を動かせと教えてくれた人はもういない。既に俺もそれなりの前線を曳いているからだ。曙光が差す。荒涼とした屍の山を見上げる。そう、頂上の景色が見たかったん…

にじゅう!

家が燃えているんだ、と言った。君とこの子が取り残されて、助けに行きたいんだけど、焼けた家具に阻まれてなかなかたどり着けないんだ。枕に頬を預けた夫はどこか遠い場所を眺めている。青い明け方に私はささやく。私たちは外にいる。取り残されているのは…

じゅうく

はじめに、予感がした。僕はこの女にずたぼろにされる。可愛くて傲慢で飽き性な彼女は、来た時と同じ荷物を持ってあっさりと部屋から出て行った。プレゼントした大量の服も靴も、見事に全部残された。いらない、と言われることはなんて苦しくて気持ちがいい…