スプーン一匙の物語

ツイッター(@maru_ayase)で書いた短い短い小説の保管庫です。

2016-03-05から1日間の記事一覧

よっつめ

恋に落ちた。彼女の肌を味わいたいと甘い空想が止まらなかった。そんな僕を彼女は怯えた目で見た。元気だせ、と僕の左腿に棲む蛇がしゅるしゅると喉を震わせる。こう見えて案外いい奴なのだ。また彼女に会った。走って逃げるスカートから、かすかな鳥の羽音…

みっつめ

学校でもどこでも、いつも眠っているやつだった。理由はつまらないから、成長期だから、眠たいから。ぺたんこの学生鞄に、奇妙な本が入れっぱなしになっているのに気づいたのは俺だけだ。あいつが寝ている間は取り出してよく読んでいた。ひんやりと明るい、…

ふたつめ

冬になると、好きな人が手を繋いでくれる。「さむー」「おはよ」「おはよ。ね、ポケットに手ぇ入れさせて」「やだ。アンタ手ぇ冷たいもん」「いいじゃん!ああさむい」コートのポケットに氷のような手を押し込まれ、私は大げさに身震いした。てのひらの窪み…

ひとつめ

久しぶりに父母の夢を見た。両親をどこか海っぺりのこじゃれた観光地へ連れて行こうとする夢だった。いいじゃない、と言わせたくて沢山のガイドブックをめくり、移動手段をつなぎ合わせ、旅のしおりみたいなものを作った。幸せでも、あまり両親の顔を見ては…