スプーン一匙の物語

ツイッター(@maru_ayase)で書いた短い短い小説の保管庫です。

2016-03-23から1日間の記事一覧

じゅうろく

家に沈丁花の匂いが漂っている。妹が発情期に入って、体のどこかに咲いたのだ。飲み屋の女にクローバーをうつされた父親の首筋に生えた芽を、母親が苛立ちながら抜いている。昨日初めて触れた彼女の下腹には、紫色の桜草がみっしりと咲いていた。種が紛れ込…

じゅうご

茹でたての卵の殻を剥き、フォークの背で静かに潰す。粉っぽい黄身とぷるんとした白身が混ざるまで、入念に。潰したジャガイモにオニオン、ベーコンを和えたものに投入し、マヨネーズと混ぜ合わせる。工程が一つ進むたびに忘れていく。仕事、家族、性別、名…

じゅうよん

幼稚園からの幼馴染みだ。三丁目辺りに住んでいるとは聞いた。小中高と皆勤賞で、宿題のプリントを届ける機会がなかった。迎えに行くよと言っても、だいたい近所のコンビニで待っていた。同窓会を知らせるメールが届かずに戻ってきて、直接聞こうとなってや…