スプーン一匙の物語

ツイッター(@maru_ayase)で書いた短い短い小説の保管庫です。

2016-03-19から1日間の記事一覧

じゅうさん

怖いよお姉ちゃん。大丈夫、私がついてる。姉妹両方の声をあてるのは初めてだ。妹の声はもっと甘い方がいいか、とホラーゲームの台本を閉じる。少女から老婆まで幅広く演じてきた私も、先日の妖怪役は新鮮だった。外に出ると、隣室の男性が声をひそめて話し…

じゅうに

生き残りたければ鍋を持ち歩きなさい、とお告げが下った。シチュー鍋片手にデートへ向かうと、お前のそういうところが嫌いだったと彼氏にふられた。帰り道で財布と鍵をなくし、部屋に入れなくなった。怖くなって頭に鍋を被る。ふいに他の住人が出てきて私の…

じゅういち

新しい部屋には前の住人宛の郵便物がよく届いた。野菜と健康食品のカタログ、宗教新聞(神はそのひとり子を賜わったほどに、この世を愛して下さった)、海の絵葉書(オークランドは真夏みたいな暑さです)。全部捨てて、彼女はどこに行ったのだろう。最後に…